「連濁はいつ起こるのか?」
(2001.10.01 更新)
このページは濁音ザ・ダ行を生んだ清音サ・タ行の変化を考えます。
01.はじめに
02.連濁とは何か
03.清濁と連濁の関係
04.清む(清音)と濁る(濁音)
05.ガ行鼻濁音
06.サ行の直音化について
07.タ行の破擦化について
08.ツァ行音について
09.四ツ仮名について
目次(「連濁はいつ起こるのか?」)へ
9.四ツ仮名について
前回の更新ではサ・タ行の変化を考えたのですが、ここでそれらの濁音であるザ・ダ行の発音をヘボン式ローマ字であらわすと、次のようになります。
ザ行:ザ ジ ズ ゼ ゾ
za ji zu ze zo
ダ行:ダ ヂ ヅ デ ド
da ji zu de do
*ザ・ダ行の各音についてはのちに考察します。
上のローマ字をみてもわかるように、ジ・ヂとズ・ヅは現在では同じ発音になっています。そして発音が同じであるこれらのジ・ズ・ヂ・ヅの四つの仮名はむかしから四ツ仮名といいならわされていますが、それらの表記については内閣訓令第一号・内閣告示第一号(昭和61年7月1日付)では、次のようにきめられています。(「現代仮名遣い」の実施について」:岡島昭浩氏掲載のものから引用)
「前書き
1 この仮名遣いは,語を現代語の音韻に従って書き表すことを原則とし,一方,表記の慣習を尊重して一定の特例を設けるものである。(・・・以下省略。「ぢ」「づ」関係項目は次のとおり。)
5 次のような語は,「ぢ」「づ」を用いて書く。
(1)同音の連呼によって生じた「ぢ」「づ」
例 ちぢみ(縮)(・・・以下省略。)
(2)二語の連合によって生じた「ぢ」「づ」
例 はなぢ(鼻血)((・・・以下省略)
なお,次のような語については,現代語の意識では一般に二語に分解しにくいもの等として,それぞれ「じ」「ず」を用いて書くことを本則とし,「せかいぢゅう」「いなづま」のように「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるものとする。
例 せかいじゅう(世界中) いなずま(稲妻)(・・・以下省略。)」
上の現代かなづかいの規則は発音に基づき仮名を表記することを原則として、例外としてたとえば「鼻血」(鼻はな+血ち)のように二語からできている複合語や「縮むちぢむ」のような同音連呼の単語については連濁をみとめた表記とするものです。しかしこのような例外については現代人にはなかなか難しい書き分けとなっていると思われます。たとえば「もとづく」(基礎が定まる)という語はもし「基づく」という表記を習っていなければ「基づく」とは書くことができないと考えられます。実際パソコンで「基づく」を打ち出そうとするとき多くの人は(私もよくまちがうのですが)「motozuku」と打って「基づく」がでてこず、あわてて「motoduku」と打ちなおすのではないでしょうか。
ところでこのジ・ヂとズ・ヅの表記のつかいわけはパソコン使用がひろまってきた今日ふたたび現実的な問題となってきましたが、中途視覚障害者や点訳者が現実的にこのジ・ヂとズ・ヅの区別の困難に直面していることを日本点字委員会のホームページのなかで知りました。現代語のかな表記を考えていくうえで参考になると思い、「2語の連濁の基準」の一部をつぎに引用します。(「現代かなづかい」に関する意見書の「歴史的かなづかいとの決別」のなかの「2語の連濁の基準」から)
「<点字において間違えやすい例>
点字使用者の場合、「ミヂカ」(身近)、「コヂンマリ」(こぢんまり)など、連濁と認められている語を表音的に書き表す傾向が極めて多く見られる。
「イナズマ」(稲妻)や「サカズキ」(杯)などは語源に引かれやすいが、「キズナ」(きずな)は最近ひらがなで書かれているせいか、点訳に際しても間違いが少なくなっている。
「アキチ」(空き地)、「ダイチ」(大地)、「チヒョウ」(地表)などに引かれて、「スナジ」(砂地)、「ダイジシン」(大地震)、「オオジヌシ」(大地主)などが乱れる。
「チカヅク」(近付く)と「ウナズク」(うなずく)や「ツマズク」(つまずく)の区別がつきにくい。
「ムツカシイ」(難しい)に引かれて「ムズカシイ」(難しい)が乱れる。
「ムトンチャク」(むとんちゃく)、「アイチャク」(愛着)、「シュウチャク」(執着)に引かれて、「ムトンジャク」(むとんじゃく)、「アイジャク」(愛着)、「シュウジャク」(執着)が乱れる。
同じ漢字でも「ジチ」(自治)や「トウチ」(統治)と「セイジ」(政治)や「メイジ」(明治)と、清音と濁音に分かれるものがあるが、これらは混乱を引き起こしやすい。特に古語で「ヂリョウ」(治療)といった「チリョウ」(治療)が、「スイジリョウホウ」(水冶療法)となる場合には間違えやすい。
「レンチュウ」(連中)、「シンチュウ」(心中)、「ネンチュウ ギョウジ」(年中行事)などに引かれて、「レンジュウ」(連中)、「シンジュウ」(心中)、「ネンジュウ ギョウジ」(年中行事)などが乱れる。
「コウジチュウ」(工事中)、「ジュギョウチュウ」(授業中)などに引かれて、「セカイジュウ」(世界中)、「イチニチジュウ」(一日中)などが乱れる。
なお、「正書法について」では、現代国語では「ぢゅう」が使われることはないと書かれてあるが、岐阜県の川に囲まれた「ワヂュウ」(輪中)では、輪の中という分析的意識があるのではないかと思われる。」
ところでこのように現代語において表記の混乱の問題が起こるのは、いうまでもなくジ・ヂとズ・ヅの仮名表記が違うにもかかわらず発音が同じであることによるもので、このようなジ・ヂとズ・ヅの混同はじつはずっとむかしの中世から起こっています。
そこでまずキリシタン文献のサ・ザ・タ・ダ行の表記をみてみます。(小松 昭和56:126)
「十六世紀末に渡来したポルトガル人宣教師たちは、多くのローマ字文献を残したが、それらにおいては、サ・ザ、タ・ダの四行が次のように表記されている(十章)。
sa xi su xe so ta chi tu te to
za ji zu je zo da gi zzu de do」
*小松氏の注(小松 昭和56:308-311)によれば、xi・chi・tu・ji・gi・zzuはそれぞれ[i](シ)・[ti](チ)・[tsu](ツ)・[i](ジ)・[di](ヂ)・[dzu](ヅ)。
このようにキリシタン文献では四つ仮名は表記しわけられていたのですが、そのころあたりから四つ仮名の乱れ(混乱)が問題になってきた事情が、次の文章からわかります。少し長いのですが、以下引用します。(小松 昭和56:127)
「・・・切支丹文献などには、多くの場合、四ツ仮名の乱れがさほど目立たないが、それは、その当時としてのきヽれヽいヽなヽことばで記されているためであろう。十六世紀のうちに、すでにある程度の混乱が生じていたことは、日本がわの文献によって知ることができる。
元禄八年(一六九五)に『仮名文字使蜆けん縮しゅく涼りょう鼓こ集しゅう』という仮名遣書が刊行されている。「蜆縮涼鼓」とは、「しじみ」「ちぢみ」「すずみ」「つづみ」ということであって、四ツ仮名の表記が問題になる語を集めたものである。こういうものが出版されていることは、とりもなおさず、そのころ、すでに「じ」「ぢ」、「ず」「づ」が、発音のうえで完全に区別を失っていたこと、そして、少なくとも一部の知識層では、それらの書き分けが依然として要求されていたことを意味している。
以上は京都における状態であるが、関東では、この合流がもっと古い時期に起こっており、日蓮(一二八二没)の手紙などには、そういう例がいくつも指摘されている。一方、高知県などでは、最近までその区別が明確に保たれていたが、現在ではすでに合流がかなり進んでいるらしい。」
ここで現在の四つ仮名の分布を、昭和43年と1998年に出版された下記の本(Aは平山 昭和43:87。BはNHK 放送文化研究所編 1998:130)からみておきます。
A.「四つがなの区別のある方言は九州では鹿児島・宮崎・大分・佐賀の諸県の大部に広がり、四国では高知県に集中し、本州では三重県の南部に分布しています。
高知方言を例にとれば、「ジ」「ヂ」「ズ」「ヅ」の区別があります。たとえば「富士」は[Fui]、「藤」は[Fudi]のように区別します。」
B.「・・・現代語では共通語をはじめ多くの方言でジとヂ、ズとヅの発音の区別はない。この区別が高知県には残っており、次のように現われる。
[ui] 「富士」/[udi] 「藤」
[kuzu] 葛くず(植物)/[kudzu] 屑
四つ仮名の区別は 西部方言は高知県のほか、狭い地域としては紀伊半島南部にも認められる。しかし、今日では退化現象もいちじるしく、高年層を除き区別を失っている。」
*同書p173の「地図8 方言色の濃い音声特色の分布」(2.四つがなの方言)では紀伊半島南部(あるいは上のp87で指摘されている三重県の南部)に分布をあらわす黒丸点がみられません。この分布図と記述とのちがいがどのような理由によるのかは、いま私にはわかりません。
これまでの引用でわかるように四つ仮名の混同は十六世紀にはすでにみられたようですが、その後混乱が深まり、現在ではそれらの区別が九州や高知県などの一部に存在するのみとなり、消失に向かっています。
では、これから四つ仮名混同の原因を考えていくことにします。まずそのために、現在のサ・ザ行とタ・ダ行の発音(簡略表記)をみてみることにします。(小泉 1993:80を参考にしました。)
サ行:サ シ ス セ ソ タ行:タ チ ツ テ ト
sa i s se so ta ti ts te to
ザ行:ザ ジ ズ ゼ ゾ ダ行:ダ × × デ ド
dza di dz dze dzo da × × de do
*s,zは歯茎摩擦音([s],[z])。,は後部歯茎摩擦音([],[])。ts,dzは歯茎破擦音([ts],[dz])。t,dは歯茎閉鎖音([t],[d])。t,dは後部歯茎破擦音([t],[d])。母音は[a],[i],[](平唇のウ),[e],[o]。
ところで上のジをのぞくザ行がs(シをのぞくサ行の子音)の有声音z(歯茎摩擦音)でなく、dz(歯茎破擦音)になっていることに不思議に思われる方がいると思いますので、少し説明することにします。(ただし、ザ行の頭子音がdzでなくzである京都方言などの方には、以下の説明はわかりにくいと思います。もし読んでもわかりづらいときは東京方言などの話者の発音を直接聞いて、その違いを感じとってください。蛇足ですが、私の方言は滋賀方言です。それで関西方言の一つと習い、自分でも京都・大阪の言葉との親近性を感じているのですが、この更新のために色々調べ考えているうちに、ザ行の発音が京都・大阪とは違う(私の方言は[d]・[dz]。京都方言は[]・[z])のにあらためて驚きました。)
私達はサ行とザ行に同じ仮名を用いるため、サ行音とザ行音を同じような発音と思っています。しかし、たとえばサとザを発音しながら口の形と舌の位置に注意してみると、発音の仕方に違いがあることに気づきます。服部氏の説明によれば、次のような違いがみられます。(服部 1951:96)
「日本語(東京方言など)の「ザ」「ズ」「ゼ」「ゾ」(母音に先立たれない場合の)の子音は[z]ではなくて,同じ調音點の閉鎖音から[z]へわたって行く破擦音[dz]である。大體,「ツ」の子音である破擦音[ts]の有聲音であるといえる。多くの日本人は純粹の摩擦音[z]を發するのに非常に練習を要する。」
また語中に現れるザ行(ジをのぞく)は、次のようにz(有声歯茎摩擦音)があらわれます。(M.シュービゲル 1982:31)
「[z] 「有声歯茎摩擦音 アザ[aza]という語の中に現れる[z]音。上記[s]の有声音であるが,語頭には用いられない。」
上の説明でわかるように、語頭(母音に先立たれない場合)のザの発音はツァ(tsa)を発音するときの口の形と舌の位置を変えずに有声化させてヅァ(dza)と発音するときの音で、その反対にサ(sa)の口の形と舌の位置を変えずに有声化(za)させてみると、確かに仮名ザの発音(ヅァ:dza)とは音が違うのに気づかれるでしょう。
この違いをわかりやすくまとめると、次のようになります。(ここでは母音に先立たれない場合の発音を考えています。)
無声音 有声音
歯茎摩擦音:サ ( [sa])−za( [za])
歯茎破擦音:ツァ([tsa])−ザ([dza])
*ただし、語中のザはdzaではなくza。例:「痣」(あざ:[aza])
しかし上のdza(ザ)とzaの違いは本当に小さいので、皆さんも上の説明をもう一度読んで自分の舌と口で確かめてみてください。
ところでジの発音は母音に先立たれない場合には、次のようになっています。(服部 1951:106)
「・・・日本語(東京方言等)の「ジ」の子音は,母音に先立たれない場合には,[d](塩ァには[],ただし[]は[]の有聲音。§5.6.1.参照)で表わし得る破擦音である。母音間では[]であることが多い。・・・(以下省略)・・・日本語の[]も,ドイツ語などの[]から區別するためには[]で表わしてもよい。即ち,[i]「シ」,[i][i]「ジ」,[i]「チ」。
また高知や九州などジ・ヂの区別がある方言の発音は次の通りです、(母音に先立たれない場合の発音です。)(城生 1977:134)
「東京では「字」と「痔」などは共に[i]となって区別がないが、高知では[i](摩擦音)と[di](破裂音)で、また九州の大部では[i]と[i](破擦音)でともに区別がある。」
また語中では、次のようになっています。(M.シュービゲル 1982:31)
「[] 「有声後部歯茎摩擦音 []の有声音が[]である。シのかまえで声帯を振動させると,この音がでる。しかし,日本語ではふつうジ[di]のように破擦化するが,語中ではアジ[ai]のように,摩擦音で現れることもある。」
上の説明でわかるように、語頭(母音に先立たれない場合)のジの発音はチ([ti]:ローマ字のchi)を発音するときの口の形と舌の位置を変えずに有声化させたヂ([di])の音で、その反対にシ([i]:ローマ字のshi)の口の形と舌の位置を変えずに有声化([i])させてみると、確かに仮名ジの発音([di])とは音が違うのに気づかれるでしょう。
この違いをわかりやすくまとめると、次のようになります。(ここでは母音に先立たれない場合の発音を考えています。)
無声音 有声音
後部(硬口蓋)歯茎摩擦音:シ( [i])−i( [i])
後部(硬口蓋)歯茎破擦音:チ([ti])−ジ([di])
*ただし、語中のジはdiではなくi。例:「味」(あじ:[ai])
しかし上のdi(ジ)とiの違いは本当に小さいので、皆さんも上の説明をもう一度読んで自分の舌と口で確かめてみてください。
ところでこれらの説明からわかるように、共通語のサ・ザ・タ・ダ行の発音は精密表記であらわすと、次のようになります。(簡略表記はこちら)
サ行:sa(サ) i(シ) s(ス) se(セ) so(ソ)
ザ行:a/za(ザ) i/i(ジ) /z(ズ) e/ze(ゼ) o/zo(ゾ)
タ行:ta(タ) i(チ) ts(ツ) te(テ) to(ト)
ダ行:da(ダ) * * de(デ) do(ド)
*ジ(ヂ)・ズ(ヅ)の左項は母音に先立たれないとき(語頭)、右項は語中・語尾のときの発音です。
ここで上のサ・ザ・タ・ダ行にあるそれぞれの異なる子音と五母音の組み合わせを考えると、次のようになります。(・t・・d・dzはそれぞれ・・・・の簡略表記です。)
無 声 音←―――――――→有 声 音
s行 :sa si★ s★ se so z行:za zi z ze zo
行 :a i e o 行:a★ i ★ e★ o★
t 行 :ta ti★ t★ te to d行:da di★ d
★ de do
t行 :a i e o d行:a i e o
tsa行:tsa tsi★ ts tse tso dz行:a i★ e o
*★印の音は方言音・乱れた発音もしくは外来音などとして現れるとき、あるいは一般的には用いられない音ですが、参考のため筆者でくわえ、各行の並びもなおしました。(城生 1977:134,136を参考にしました。)
*さきの服部氏の説明では精密表記も考慮されているのですが、[i](有声歯茎硬口蓋音)ではなく、[i](有声硬口蓋歯茎音)となっている理由は現代共通語の語中の「ジ」は[i]でなく[i]であるためなのかもしれません。
さてこのように無声子音(s・・t・t・tsa)と有声子音(z・・d・d・dz)の対がわかったのですが、ここで四つ仮名混同の原因についての一つの考えを紹介しておきます。(山口 1997:159)
「ところで,ヂ,ヅが[di]と[du]であった間(おそらく室町中期まで)は問題なかったが,[di],[dzu]に移行すると,ジ[i],ズ[zu]との差異が小さくなり,次第に混乱を起こして,ついに合流した。一般には,破擦音ヂ[di],ヅ[dzu]の破裂性が弱化して,摩擦音ジ[i],ズ[zu]に吸収されたと考えられているが,ザ行子音が摩擦音だったとは簡単にいえず,合流の詳細は明らかでない。・・・(以下省略)」
上の考え方は先の簡略表記を用いて、次のように表わすことができます。
連濁
ジ:i(シ)-----------------→i(ジ)
ズ:su(ス)----------------→zu(ズ)
破擦化 連濁 破裂性弱化
ヂ:ti(ティ)----→ti(チ)-----→di(ヂ)-----→i(ジ)
ヅ:tu(トゥ)---→tsu(ツ)-----→dzu(ヅ)----→zu(ズ)
*uは平唇のu([])
そしてこのような四つ仮名の混同を仮名の種類の減少ととらえ、そこに歴史的変化を見る考え方があります。以下引用します。(平山 昭和43:100-1)
「この四つのかなの区別のある方言を「四つがなの方言」といっています。
「ジ」「ヂ」は区別がなくなって一つの音になり、「ズ」と「ヅ」ははっきり区別しているのは「三つがな方言」といいます。
一方、共通語をふくむ多くの方言は、「ジ・ヂ」も「ズ・ヅ」もそれぞれ区別がないので、「二つがな方言」ということができます。
「ジ・ヂ・ズ・ヅ」がおなじ発音ヅィ[dz](またはヅゥ[dz])になってしまった方言が、奥羽方言や出雲方言など、いわゆる「ズーズー弁」といわれている一つがな方言」です。
北海道方言も、周辺地区(たとえば、様似シヤマニ・浦河ウラカワ・留萌ルモエ・稚内ワツカナイ・・・など)の方言では、奥羽方言とまったくおなじです。
日本語の発音の歴史史的変化の一面、すなわち、四つがな→三つがな→二つがな→一つがな、という過程を、この分布図から読みとることができるわけです。」
*筆者注:分布図は省略しました。
このように四つ仮名の混同を、ヂ(di)・ヅ(dzu)がそれぞれジ(i)・ズ(zu)に合流したと考えるのが一般的ですが、それとは逆のジ(i)・ズ(zu)がヂ(di)・ヅ(dzu)にそれぞれ合流したと考えられる、次のような現象もまた存在します。(外山 昭和47:248-9)
「・・・これ*によれば、契沖の観察によっても、京、田舎(どこであるか不詳)とも四つ仮名の混乱は相当に進んでいたと見られるが、ただ、京都では「ヂ・ヅ」→「ジ・ズ」の方向に、田舎では「ジ・ズ」→「ヂ・ヅ」の方向に混乱が起きていたことになる。・・・(中途省略)・・・
四つ仮名の混乱の方向は、破擦音の摩擦音化というように考えられれば単純でわかりやすいが、実際はそのように単純なものでなく、京、田舎をも含めて、かなり複雑な様相を呈していたものであるらしい。次にあげる『蜆縮凉鼓集』によれば、京都でも、「ジ・ズ」→「ヂ・ヅ」の混乱が起きていたようであるし、現代の諸方言におけるこれらの音も、単純な摩擦音ではない。・・・(中途省略)・・・
また、右の『蜆縮凉鼓集』によると、
又総て京人の物いふを聞に上かみをはぬればしヽすヽの二字をもぢヽづヽの音に呼よびぬ亦誤也。(傍点筆者)
とある。たとえば、「啓上けいじやう」「孔雀くじやく」「香水かうずい」「奇瑞きずい」などは、正しく「じ」「ず」と発音するが、「進上しんじやう」「練雀れんじやく」「神水しんずい」「天瑞てんずい」などのばあいは、「其音悉ことごとく其字に違へり」という現象が起きていたというのである。
つまり当時の京都においては、
「ジ・ヂ」→「ジ」(〔i〕〔di〕>〔i〕)
「ズ・ヅ」→「ズ」(〔zu〕〔dzu〕>〔zu〕)
と一般的には破擦音の摩擦音化という傾向を示していたのであるが、前に撥音が来るばあいにかぎり、
「ジ・ヂ」→「ヂ」、「ズ・ヅ」→「ヅ」
のごとく逆に摩擦音の破擦音化の現象が起きていたと云うのである。・・・(以下省略。)」
*筆者注:『和字正濫鈔』(元禄六年(一六九三)成立、同八年刊行)のこと。
これらの記述をみればわかるように、四つ仮名の混乱は破擦音の摩擦音化(「ヂ」→「ジ」また「ヅ」→「ズ」)とばかり考えることは間違いであるといえるでしょう。しかし上の引用にあるように、世界の言語によくみられる破擦音の摩擦音化だけでなく、摩擦音の破擦音化の現象が日本語に起きていたとすれば、言語学的に考えてもこれは珍しい現象であるといえるでしょう。そしてまたもし四つ仮名の混乱が「ヂ」→「ジ」、「ズ」→「ヅ」の方向に進んでいたとするなら、上のジをのぞくザ行がdz(歯茎破擦音)になっていて、ジが[di](後部歯茎破擦音)のように破擦化していることをどのように考えればよいでしょうか。実際のところ服部氏の観察による「多くの日本人は純粹の摩擦音[z]を發するのに非常に練習を要する」という現実をどのように考えればよいのでしょうか。(詳しくは次項の各地方言の例をみてください)
このように考えてくると、四つ仮名の混乱の原因が破擦音の摩擦音化ではないように思われてくるのですが、それでは四つ仮名の混乱の正体は何だったのでしょうか。実際多くの方言(とくに語中)で破擦音の摩擦音化が見えるのは事実ですが、その混同の原因は本当のところ何だったのでしょうか。袋小路にはいってしまったこの四つ仮名の混乱の原因を考えるために、もう一度もとにもどって、各地の方言音を
『現代日本語方言大辞典』から見てみることにします。(それぞれ平山 平成4 :1巻
81,3巻 2185-8,1巻 99-100,3巻 2238-9,3巻 2258-9,3巻
2613-5)
痣 笊 味 時間 地震 頭痛
(あざ) (ざる) (あじ) (じかん) (じしん)(ずつう)
八戸 :ana ar an ga s
福島 :aa ar a ga :
東京 :adza dzar adi ika
dii dz:
八丈(島):* ar adi ika
ii
(buri)
新潟 :* dzar adi dika
dii
(アタマ)
長野 :* zaro ai ika ii (atama)
京都 :aza (ikaki) ai ika
ii zuu:
島根 :* (so:ks) adi ika
* dz:
広島 :aza (itami) ai ika ii zuu:
高知 :* dzaru ani * nii (atama)
福岡 :* dzaru adi ika
ii (atama)
鹿児島 :aza (oke) aT dika nae uu:
沖縄 :* (so:ki) adi dika (ne:) (iburu)
*( )内の語が該当する方言の語彙です。
*はd([d]:後部歯茎破擦音)。はdz([dz]:歯茎破擦音)。ほかは省略。
*adza(東京方言:「痣」)やadi(東京方言:「味」)などの左肩の小文字dは破擦音弱化をあらわしています。
ここで破擦音と上の破擦音弱化を説明しておきます。(服部 1951:184)
「破擦音*とは,閉鎖音の次にそれと調音點の同じ摩擦音が續き,兩者の間に強さの弱まりなく,全體が漸強音或は漸弱音をなすものをいう。・・・(中途省略)・・・
日本語の母音に先立たれない「ジ」「ズ」などの子音は,東京方言などにおいて[d][dz]と表わすべき破擦音であるが,關西地方の方言では破裂音のほとんど聞えないこともある。しかし,その摩擦音は狹めが普通の摩擦音より狹く始まって次第に廣がって行く點で,破擦音のわたり音的おもかげをとどめているから,弱まった破擦音といってよい。」
この服部氏の説明をみれば、上の各地の方言に多くあらわれている破擦音の弱化現象は、次のような変化と考えることができるでしょう。
(歯茎破擦音)---→dz(弱化破擦音)→z(歯茎摩擦音)
(後部歯茎破擦音)→d(弱化破擦音)→(後部歯茎摩擦音)
*八戸方言([ana]:「痣」)にみられる入りわたり鼻音(n)については、「鼻母音の音韻変化について」をみてください。
*例(「痣」:アザ):adza(例:福島方言)→adza(例:東京方言)→aza(例:京都方言)
*例(「味」:アジ):ad(例:福島方言)-→adi(例:東京方言)-→ai(例:京都方言)
注:上に示した二例の変化は、破擦音の変化の方向性(あり方)を述べているだけで、たとえば福島方言のadがadiのように変化したことをいっているのではありません。この問題は次回の更新で考えていくことにします。)
ところでいま上でみた変化は通説でいわれている破擦音の摩擦音化(dz→z,d→)としてまとめることができますが、この摩擦音化は破擦化のなかの後半部分の変化でもあります。そこでここで日本語におけるタ行の破擦化を順序をおってみてみることにします。(詳しくは前回の更新(「タ行の破擦化について」)をみてください。)
《無声音の場合》(無声破擦化)
1.有気音化:t(無気歯茎閉鎖音)→th(有気歯茎閉鎖音)
2.破擦音化:th-------------→ts(歯茎破擦音)/t(後部歯茎破擦音)
3.破擦音の弱化:ts/t--------→ts(弱化破擦音)/t(弱化破擦音)
4.摩擦音化:ts/t------------→s(歯茎摩擦音)/(後部歯茎摩擦音)
《有声音の場合》(有声破擦化)
1.有気音化:t(無気歯茎閉鎖音)→th(有気歯茎閉鎖音)
2.破擦音化:th--------------→ts(歯茎破擦音)/t(後部歯茎破擦音)
3.連濁 :ts/t-----------→dz(歯茎破擦音)/d(後部歯茎破擦音)
4.破擦音の弱化:dz/d--------→dz(弱化破擦音)/d(弱化破擦音)
4.摩擦音化:dz/d------------→z(歯茎摩擦音)/(後部歯茎摩擦音)
*連濁は「鼻音結合に由来する」と考えられています。そしてこの鼻音結合は次項の前鼻音付き有声破擦音にみられる入りわたり鼻音(n)として現れています。
上の無声破擦化と有声破擦化の変化をまとめると、それぞれ次のようなります。
A.無声破擦化
無気歯茎閉鎖音 有気歯茎閉鎖音 無声破擦音 弱化破擦音 無声摩擦音
t------------→th---------→ts/t-----→ts/t-----→s/
B.有声破擦化
無声破擦音 (前鼻音付き有声破擦音)
有声破擦音 弱化破擦音 無声摩擦音
ts/t----------ndz/nd------→dz/d----→dz/d-----→z/
*破擦音は閉鎖音の次にそれと調音點の同じ摩擦音が続くので、正確には(精密表記では)t→th→ts/→ts/→s/、またts/→n/n→/→dz/d→z/のような変化と考えられるでしょう。
ところで上のような無声破擦化(t→t→:精密表記ではt→→)を考えると、下町言葉の特徴として有名な「ヒ・シの混同」をよりうまく説明することができ、また指示代名詞コ・ソや係り結びの起源を考えるうえで大変役にたちます。ここでは「ヒ・シの混同」について少し補足するため、以下引用します。(外山 昭和47:245)
「・・・また、同書には、なお、
【し】の仮名【ひ】と聞えぬやうにいふへき事
【ひ】の仮名【し】と聞えぬやうにいふへき事
の二条があり、当時の江戸に、「ヒ」と「シ」の混同があった由うかがえる。このような混同が起こるのは、「ヒ」がすでに唇音〔i〕ではなく、口蓋音〔i〕(現代東京語ではこの音)に近い音になっていたためであろうと思われる。〔〕と〔〕とは調音点がきわめて近いゆえ混同がおきやすいのである。・・・(以下省略)」
*筆者注:原著では【し】【ひ】はともに「シ」「ヒ」の文字が□(四角括弧)のなかにはいっています。
このように「ヒ・シの混同」を解く鍵が調音点の近さにあると考えたわけですが、そう考えると、「シ」の変化をt→t→(硬口蓋歯茎摩擦音。また後部歯茎摩擦音)よりもt→→(歯茎硬口蓋摩擦音)と考えるほうが、破擦音の定義からも、また(歯茎硬口蓋摩擦音)のほうがより調音点が近いという点からも理にかなっています。この考えをまとめると、次のようになります。
歯茎音 破擦音 歯茎硬口蓋摩擦音 硬口蓋歯茎摩擦音 声門摩擦音
チ:ti-----→i-----→i----------→i(シ)
ヒ:pi-----→p-----→---------→i(ヒ:東京方言)
pi-----→pi---------------------------------→hi(ヒ:京都方言)
*ヒの変化については「三たびハ行頭子音の変化について(問題1)」をみてください。
*チの変化は、とりあえず上のように考えておきます。次回の更新で問題点を考えます。
さてここで現代の仮名であらわされるところのサ・タ行の発音の変化(例として下記)をみておきます。(以下、精密表記ではなく、簡略表記で考察します)
「サ」への変化 :(ta→)tha(タ)(A)→tsa(ツァ)----→tsa-→sa(サ)
「チ・シ」への変化:(ti→)thi-------→ti(チ)(B)---→ti--→i(シ)
「ツ・ス」への変化:(tu→)thu------→tsu(ツ)(B)--→tsu-→su(ス)
「ザ」(C)への変化:(ta→)tsa-------→dza(ザ)----→dza-→za(ザ)
「ヂ・ジ」(D)への変化:(ta→)ti(チ)--→di(ヂ・ジ)----di--→i(ジ)
「ヅ・ズ」(E)への変化:(ta→)tsu(ツ)-→dzu(ヅ・ズ)--→dzu-→zu(ズ)
注A:有気音化は「タ行の破擦化について」をみてください。
注B:チ・ツの変化(ti/tu→ti/tsu)は中世に、また(ti/tu→)ti/tsu→i/suの変化は上代以前に起こっています。(詳しくはこちら)
注C:ザは共通語でdza〔ヅァ〕(語中はza)、また京都方言でzaです。
注D:ジ・ヂは共通語でdi(語中はi)、また京都方言でiです。
注E:ズ・ヅは共通語でdzu(語中はzu)、また京都方言でzuです。
*母音i・uについてはここでは考察を省略し、とりあえずi・uにしてあります。
ところで無声破擦化の変化(t→t→)の起こったことは、次のような考察からうかがうことができます。(外山 昭和47:190)
「亀井孝氏(「すずめしうしう」成蹊国文三号、昭四五・三。『日本語の歴史』平凡社など)は、たとえば、「すずめ」の鳴き声の表記が「しうしう」から「ちうちう」に変るというような例をあげ、サ行頭子音が本期(引用者注:ここでは院政・鎌倉・室町時代をさしています)においてもなお破擦音であった可能性が大であるとされた。すずめの鳴き声が「ちうちう」と表記されるのは江戸期以降で、それ以前では「しうしう」であった。すずめの鳴き声を人間が一貫して破擦音〔tiu〕〔tiu〕として受けとめているとすれば、文字の上での「し」〜「ち」の移行は、「し」がむしろ〔ti〕であったことの可能性を残している。」(新しい考察はこちら)
そしてこの仮名文字「し」が破擦音[ti]であった可能性を補強する文章を、少し長いのですが、以下引用します。(奥村 昭和47:125)
「関東方言におけるチ・ツの破擦音化は、例によって、中央語の場合より早かったらしい。現代でも、琉球各地や、大分県・高知県・愛媛県・和歌山県・滋賀県の各一部等々、西日本諸方言には、ti・tuの如き破裂音が相当認められるが、東日本では、それが稀なのである。(8)
そう言えば、万葉には、「都ツ久ク多タ思シ(月立)」(三三九五、常陸歌)・「志シ志シ(父)」(四三七六、下野歌)の様な〔チ〜シ〕の相通現象がかなり存するが、いずれも、巻十四か巻二十の例に限られる。おそらく、これも、有坂秀世氏説(9)の如く、奈良時代の東国方言では、チの子音が破擦音的なものだった事を物語るのであろう。なお、万葉における〔チ〜シ〕の相通現象は、東歌防人歌の場合に著しいが、「ツギ〜スギ(天武紀下「次此云須岐」)」など、上代語における〔ツ〜ス〕の相通例は、事情が異なる。東国方言におけるツの破擦音化は、チそれよりおそかったのであろうか。この場合、上代東国方言におけるチの破擦音化に関しては、中舌母音の影響を想定すべかもしれない。現代におけるの分布は、奥羽〜北関東地方に著しいが、古くは、関東地方を通じて、かなり広く分布していたとも考えられるのである。上代東国方言の場合、チの破擦音化は、語中・語尾の場合著しかったとする説もある。」
上の引用でもいわれているように、都言葉の「父」(チチ)が上代東国方言で「シシ」となっていること、また江戸期以降にすずめの鳴き声の表記が「しうしう」から「ちうちう」にかわることから、関東方言におけるチの破擦化は都言葉より早く起こっていたことがわかります。そしてこのことから仮名文字「チ」と「シ」の関係を、次のように考えることができます。
《チの破擦化(ti→ti)の起こった時代の違い》
古代 上代 中世 江戸期以降
東国方言(関東方言):ti----→ti(表記はシ)-------→i(表記はシ)
都言葉(関西方言) :ti----------→ti(表記はチ)-→i(表記はシ)
*江戸期以降の関東方言のtiはチで表記された。(新しい考察はこちら)
また上代東国方言の場合、チの破擦化は語中・語尾の場合著しかったとすることも、東京・長野・京都の各方言を比較すると、うなづけると思います。
語中(例:「味」(あじ)) 語頭(例:「時間」(じかん))
東京方言:adi ika
長野方言:ai
ika
京都方言:ai ika
ところでシをのぞくサ行の変化は前回の更新(「ツァ行音について」)でみたように、sはtsに遡ると考えると、古代のスはtu→tsu→suと変化したと考えることができます。そしてこの破擦音ス(tsu)は古代のシ(ti)と同じように長くtsu音であったため、中世にタ行のツが破擦化(tu→tsu)したとき、ツの連濁であるヅ(tsu→dzu)と混同しました。このように考えると仮名文字「ズ」と「ヅ」の関係を、次のように考えることができます。
古代 上代 中世以降
ズ:tu--→tsu/su--→dzu(連濁)------→dzu
ヅ:tu-------------------→tsu----→dzu(連濁)
ここでこれまでの考察をまとめ、京都方言のサ・タ行(例は下記)の変化をみてみると、次のようになります。
古代→奈良時代頃-----→中世頃-------→その後
仮名文字のシ:ti-----ti/i---------→i-----------→i(シ)
仮名文字のチ:ti------------------→ti(破擦化)----→ti(チ)
仮名文字のジ:ti-------→di(連濁)--→i(ジ)
仮名文字のヂ:ti------------------→ti→di(連濁)--→di(ヂ)
仮名文字のス:tsu----→su-------------------------→su(ス)
仮名文字のツ:tu-------------------→tsu(破擦化)---→tsu(ツ)
仮名文字のズ:tsu---------→dzu(連濁)→zu(ズ)
仮名文字のヅ:tu-------------------→tsu→dzu(連濁)→dzu(ヅ)
*中世にみられた四つ仮名(ジ・ヂとズ・ヅ)はその後、破裂性が弱化してdi→iやdzu→zuのように摩擦音化して、いわゆる二つ仮名となりました。
上の変化からわかるように、中世頃ヂ(di:チの連濁)が生じたため、もともと存在したシの連濁ジ(di)と同じになり、合流したように見えることになったのです。また少し遅れてヅ(dzu:ツの連濁)が生じたため、もともと存在したスの連濁ズ(dzu)と同じになり、一見したところズがヅに合流したように見えることになったのです。そしてその後di・dzuの破擦が弱化し、それぞれi・zuになり、di・dzuとの区別があらわれたのです。このようにして四つ仮名が存在した当時の都の言葉を宣教師が記録したものがキリシタン文献であったわけです。しかし一時生じたこのような四つ仮名の区別も九州や高知の一部をのぞいて消滅してしまいました。このように都言葉にみられた四つ仮名の区別はもともとジ・ズとズ・ヅの区別があり、その後それらは混同(合流)したという通説とは反対に新しい変化で、もともとはdi・dzuの二音しかなかったのです。これが四つ仮名が混同(合流)したように見える理由です。
今まで考察してきたように、サ行(s)はツァ行(ts)に遡ると考えると、サ・ザ行の清濁関係を無声音(ts)と有声音(dz)の対立の問題に還元することができます。
破擦化:t--→ts/t---→s/
連濁 : ts/t---→dz/d
*左項はシ・セをのぞくサ行音。右項はシ・セ。
同様なことはタ行のチ(ti)・ツ(tsu)をそれぞれti・tuに遡ると考えると、タ・ダ行の清濁関係を無声音(t)と有声音(d)の対立の問題に還元することができます。
このようにしてサ(ザ)・タ(ダ)行音の古音を、次のように考えることができます。
清音---(連濁)--→濁音
サ(ザ)行音:(t---→)ts-------------→dz
タ(ダ)行音 :t-------t--------------→d
更新の時間がきました。今回破擦音化をt→ts/t→s/のようにtsとtの二種を考えましたが、次回はtがtsとtの二種に分離して変化した原因を考えることにします。