「連濁はいつ起こるのか?」
(2003.12.01 更新)
このページは「ハワ」から「ハハ」への変化を仮定してみました。
01.はじめに
02.連濁とは何か
03.清濁と連濁の関係
04.清む(清音)と濁る(濁音)
05.ガ行鼻濁音
06.サ行の直音化について
07.タ行の破擦化について
08.ツァ行音について
09.四ツ仮名について
10.すずめはスズと鳴いたか?
11.ラ行音について
12.日本語にはなぜ行音(V-)がないのか
13.『どれが梅(むめ)やら梅(うめ)ぢややら』
14.「母」は「ハワ」から「ハハ」に先祖がえりをしたのか?
15.「ハワ」から「ハハ」への変化を仮定する
目次(「連濁はいつ起こるのか?」)へ
15.「ハワ」から「ハハ」への変化を仮定する
このページは「ハワ」がこつぜんと消え、そのかわりに生き残っていた俗な言葉の「ハハ」が復活するという考えをうまく説明するために、考えた大胆な思いつきを書くことにします。その仮説を考えつき「ハワ」→「ハハ」の変化を説明できる理由を色々考えているうちに、「ハハ」→「ハワ」の変化(Cハ行転呼音(w)化:F1aF2→F1aw)に思いいたりました。そしてそれに気づくとやはりこの「ハワ」→「ハハ」の変化を仮定することはむずかしいと思うようになったのです。しかしCのハ行転呼音(w)化を考えついたのはその仮定だったので、こういうどうしても解くことがむずかしい矛盾の解決のためにはこのような仮説を考えつくことが大いに役だつ例として、ここに記録に残しておこうと思いました。
以下、最初に仮定した考えです。
「 このように「ハハ」は「ハワ」が消えた後釜として、「記憶の伝承」の中から復活してきたという考えは破綻しているので、現在の「ハワ」と「ハハ」の発音からはとても考えられないことですが、ここで大胆な考えを提出することにします。なぜなら「ハワ」がこつぜんと消え、そのかわりに「ハハ」が復活するという考えが問題なので、その矛盾を解決するためにハ行転呼を起こした「ハワ」とその後復活した「ハハ」を二つの別々の変化と考えずに、一つのものと考え「ハワ」が「ハハ」に変化したと考えるのです。そう考えれば「ハワ」がすべて「ハハ」に変化したのであれば、当然ながら「ハワ」が世の中からこつぜんと消え、隠れて生き残っていた俗な言葉の「ハハ」が世の中にとつぜんあらわれたように見えるでしょう。この信じられそうもない考えにしたがえば、「母」の変化は次のようになるでしょう。
古代 中世 現代
ハハ1([aa])---→ハワ1(faua)---→ハハ2(fafa)---→ハハ3([haa])
└--------------------------→ハワ2([hawa])
*( )内は発音。
*・f:無声両唇摩擦音。:有声声門摩擦音(後ろの「ハ3」は前の「ハ」の有声音(連濁))。
まず上の変化式を説明することにします。「母」は最初ハハ1からハワ1に変化しました。そしてその後ハワ1→ハハ2のように変化したのですが、ハワ1とハハ2はどちらも口の開きが大きいア段で、その音の違いが他のハ行転呼音のハ以外のもの(つまりヰ・ヱ・ヲ)よりもかなり大きかったため、ハワ1とハハ2だけそれらの表記が混在し残ったと思われます。しかしハワ1とハハ2の違いがかなり大きかったとはいえ、それはハ行転呼音のハ以外のものとくらべてであってしょせんその差は小さかったため、すぐにハワ1→ハハ2への変化がおこり、そのあとハハ2は近世以降現在のハハ3にかわったのです。またワ行音で表記されたハワ1もその後ハワ2へと変化したのです。つまり中世当時「母」はハワ1(であらわされるところの音)だったのですが、その後ハワ1→ハハ2→ハハ3と変化し、またその当時ハワ1の音を表記していたハワ1はハワ1→ハワ2のように発音が変化したのです。このように中世同じ音であったハワ1はその後ハハ3とハワ2と違う変化を起こしたため、ハワ1が世の中からこつぜんと消え、かわりに同音反復形のハハ2がとつぜんあらわれたように見えることとなったのです。たしかに現代音のハハ3とハワ2ではその音の違いが大きすぎ、上の説明ではなかなか納得していただけないかも知れませんが、「母」の変化の道筋はだいたいこのように考えられると思います。」
最初の仮定は以上です。その後ハワ1→ハハ2の変化を考えているうちに、ファ行音はワ行音と関係があり、その関係をウの無声(a=Fa)と有声(ua=wa)で説明できることに気づきました。(その考えはこちら)そして結局、上の信じられそうもない仮定はやっぱり信じることができないと考えるようになりました。